馬鹿につける薬

 

 

 

 

 

 



「一緒に薬草を摘みに行かない?」
伊作のこんな一言で、その日の早朝、伊作と綾部は山の上にいた。

「先輩、この辺にもたくさん生えてますよ」
「ああ、ありがとう。綾部は見つけるのうまいね」
「先輩ほどでは」

互いに籠を背負って黙々と薬草摘みをする二人。
まだ日が昇っていない空が明るくなりはじめていた。

「ほら、綾部。日が昇るよ」
向かいの山から、太陽が少しずつ顔を出す。二人はしばらくそれを眺めていた。
「何か、叫びたくなりますね」
「そうだね…」

やっほー、とありきたりな綾部の掛け声。向かい側からはやはり同じ気の抜けた声が返ってきた。

対して伊作は。


 

「綾部ー!大好きだー!!」

 


太陽はもう半分ほど姿を見せている。今はまだ涼しいが、これからどんどん気温も上がっていくだろう。

「…朝っぱらから何やってんですか」

綾部は驚きと呆れと、ほんの少しの照れをぎりぎり隠せなかった顔で言った。

「…ん?今一番叫びたいことを叫んだだけだけど?」
早朝の山に、一陣の風が吹く。それに応えて木と草がさわさわと揺れた。爽やかな一日の始まりだった。

「…馬鹿ですね」
「今頃気付いたの?」

綾部ははぁ、と溜息をついた。

「…もう少し探して帰りましょう。ついでに、馬鹿につける薬も」

伊作は苦笑いで答えた。

「もう持ってるよ」
「…どうでしょう?」
「…それに、探して見つかるものでもないしね」
「じゃあ、どうするんです?」
「…追いかけて、捕まえるんだよ」
「…どんなふうに?」

 

 

ふわり、と。

 

伊作は綾部を抱きしめた。それは風のように。



 

ようやく昇りきった太陽が朝を照らす頃。

「…暑いです」
「…籠、邪魔だなぁ…」


 

 

 

帰り道で伊作の籠の底が抜けるのはもはやお約束。


 

 

 

 

 


あとがき

伊作×綾部でした。このカプ、私が考えたものではなく、友に布教されたものです。
しかし伊作は動きが悪い。っていうか動いてくれない!ここまで書くのに少しかかりました。逆に一番動いてくれるのは仙蔵。
この二人は甘くなりますね。みなさんも気に入っていただければ、伊綾応援してください♪