この想いには、きっと僕以外の別の命が宿っている。
いつからか音もたてず、ひっそりとそれが僕に棲みはじめた。
初めのうちはささいな、とてもささいなことで、それはまるで大好きなお菓子を買ってもらえると約束された子供のように喜んでいた。
それは嘘なんだよ違うんだよそうじゃないんだよと、喉が枯れるまで言い聞かせて、何回そいつを失望させただろう。
するとお腹がすいたとわめく赤子のように、そいつは泣き叫び始めて。
そして。
本当に、本当に
いつから僕はこんなに弱くて我侭になってしまったのか。
微熱と呼ぶには
「あ、これ向こうの書庫にしまっておきますね」
「……助かる」
日暮れの図書室。ジワジワと蝉が鳴いている。
僕はいつもの作り笑顔でそう言った後、本を抱きしめて書庫に向かった。
少しかび臭い書庫の中で、ふぅと溜息をつく。
図書室に、二人だけ。
初めてのことじゃない。今までに何度かあったことだ。それなのに僕の心臓は無駄に、とても無駄にその鼓動を速める。
書庫の入り口からは、新刊の購入計画と向き合う先輩の背中が見えて。
その背中に
何度「好きです」と言っただろう。
好きです、先輩
声にならないその声が聞こえたかのように、蝉が騒ぎ始めて。
ジワジワジワじわじわじわ
じわじわじわ、好きです好きですジワジワジワ好きです好きなんです、じわじわじわ
本当に好きなんです苦しいんですジワジワジワ好きです、ああ煩い黙れだまれだまれ!
ふっと我に返ると、そこには何も変わらない夕暮れの図書室があって、蝉はいつのまにか鳴きやんでいて。
ただ先輩だけがいつもと変わらない顔でこちらを見ていた。
よっぽど死にそうな顔でもしていたのだろうか。急速に体が冷めて、ああもしかして気づかれたのかもしれないと思った。邪な僕のこの想いに。
先輩がこちらへ近付いて来る。先輩はきっと僕を罵ったりはしない。ただ、少し嫌われる覚悟は必要だと思い僕は俯いた。
「不破」
名前を呼ばれる。その声がとても優しくて柔らかくて、僕は顔を上げる。
目の前に、先輩の顔があった。
その顔が、唇がどんどん近付いて僕に触れ──
「…少し熱があるな」
自分のおでこを僕のそれにくっつけたまま先輩は言った。一瞬何のことか分からなかったが僕はすぐ理解した。
考えればすぐわかること。ああ先輩は僕の様子がおかしいのを体調不良のせいだと思ったんだそれで──あはははははは。
「…今日は休め」
僕のおでこにかかる圧力が弱くなる瞬間。
行かないで。
僕は両手を伸ばし先輩を引き寄せ───少し背伸びをしてその唇を奪った。
それから後は、よく覚えていない。
驚いたことに、先輩は僕を突き飛ばしはしなかった。
ただ、その唇が言葉よりも遥かに雄弁に先輩の心が僕には無いことを語っていた。……そんなこと自分が一番よく知っているはずだったのに。
「……すまない」
何を謝るんですか。こんなことをしておいて言葉一つ返さない僕が全て悪いというのに。
謝るくらいならいっそ───
喉まで出かかったそれさえも伝えることができず、僕は図書室を飛び出した。
あとがき
片思いは好物なんですが結構手間取りました…。その上中途半端でごめんなさい(死)
長次寵児エチャの影響か悲恋のイメージが強かったのですが書いてみると雷蔵が末期症状になってしまいました(汗)
リクした方が少しでも楽しんでいただければうれしいのですが…!リクしてくださった方のみ、宜しければお持ち帰りください。
長次は大きいからキスは身長差が大変だと思います(ぼそっ)
8月28日
pepinoさんからイラストを頂きました!!うわーうわー(壊)ありがとうございます!!素敵ですvvドキドキしますね…(ぽわん)