「よ〜し、みんな集まったか〜?」
「「は〜い」」

委員長に代わり、久々知平助が号令をかける。
きょうは一年に一度。火薬委員会の恒例行事の日。


 

 

 

火薬委員会の慣習

 

 

 

 

 


「ねえ、実は今日何があるかよく知らないんだけど…何なの?」

編入したばかりでまだ委員のことがよくわからないタカ丸が、ひそひそと近くにいた伊助に話しかけた。

「いえ、実は僕も良く知らないんです。一年に一度あるということしか…。先輩達にもあまり話してもらったことがないし…」

「三郎次は?」

「あ、すみません僕も去年まで違う委員だったので…」


火薬委員が三人いて誰も知らない。
一体何をするというのだろう。
伊助は考え込むように腕を組んだ。

「ううん…火薬委員会の謎の慣習か…」
「いや、案外お疲れ様会とかじゃないの?」
「まさかぁ」


火薬委員会お疲れ様会。その様子を想像して三人は笑った。


 

「よし、じゃあみんな行くぞ!」
「「は〜い」」
「ところで、持って来るように言ったものは持って来たか?」
「「えっ!?」」
「なんだ、お前達忘れたのか?」

三人はとっさに頭を寄せ合う。

「(な、なんか言ってたっけ!?)」
「(そ、そう言えば…)」
「(この前の委員会の時にそんなことを言ってたかも…)」


「お〜い?結局忘れたのか?」
「は〜い!忘れました!」
「「(タカ丸先輩…)」」
「しょうがないな。まぁ、俺のがあるからそれでいいかな」

その口ぶりからすると、どうやら大して重要なものではなさそうだ。
三郎次と伊助は安心した。




こうして火薬委員会一行は久々知に連れられて歩き出した。



「……………」
「……………」
「あの、久々知先輩」

タカ丸が何か言いたそうに手を挙げた。

「ついて来ればわかるさ」

久々知はそう言っただけだった。




「さあ、着いたぞ」
「ここ…?」
「何も無いよ?」

タカ丸の言葉通り、そこには何も無かった。薄茶色の地面、そこにただ薄く雑草が生えているだけのちょっとした空き地という感じだ。

その時、三郎次が何か思い出したようにつぶやいた。

「ここって確か…」

「そう。ここは旧火薬庫跡だよ」



久々知は話し始めた。


ここには昔、大きな火薬庫があったそうだよ。
いつのことかは俺も知らないけど、昔ここで大きな事故があった。
火薬の扱いを得意とする生徒───火薬委員だったそうなんだけどね、その生徒が倉庫の中で運悪く火種を落としてしまったようなんだ。
火薬庫は大爆発を起こした。幸い倉庫の近くに人はいなかったらしいけど、火種を落とした生徒は死んでしまったそうだ…。


その年からだよ。学園が火薬委員に火薬の扱いを得意とする生徒を選ばないようになったのは。
そして火薬委員会はもう二度とそんな事故を起こさないため、今でも毎年こうやってその生徒の命日に花や食べ物を供えるようになったんだ。
ただ、やはり昔のことだからもうかなり忘れられていることだけどね…。
そう言えばここに幽霊が出るなんて噂もあったっけな……。



久々知はそう言うと、持っていた包みから少しの花を取り出し、地面に置いた。


「あ、あの!」
タカ丸が突然口を開いた。
「ん?」
「ぼ、僕何か花摘んできます!」
「「僕達も行ってきます!」」





数十分後。




殺風景な空き地には色とりどりの花とお菓子、手を合わせる火薬委員達の姿があった。


 

 




「でもタカ丸先輩、よくすぐにお花なんて見つけられましたね!」
「あっはっはー。なんか近くにいっぱい生えてたんだー」

楽しそうに会話する伊助とタカ丸の横で、三郎次は久々知にささやいた。

「久々知先輩。あの花って…もしかして…」
「ああ。もしかしなくても薬草だよ。この前復活したばかりの…」







その後、仲良く保健委員長に怒られるタカ丸と久々知であった。







 

 

 


あとがき

やってみたかった火薬委員お供えネタ。
しかしタカ丸のしゃべり方とか久々知とかおかしいかも…うう。
久々知はタカ丸が年上だということにまだ気づいてません(えぇ)