「借りたいものがあるんだが」

 

そう言って貸し出し予約カードの著書名の欄に「中在家長次」と書いた仙蔵は、それを目の前の図書委員長に差し出して美しく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

し出し期間

 

 

「……?……!……」

長次がそのカードに書かれている名前を見てそんな本があっただろうかと思いを巡らし、次いでその名前が自分の物だと思い当たり、一部の人間にしかわからない微細な困惑を示すのに約三秒かかった。

「……期間は」

とりあえず物を貸す時にそれをいつまでに返却するかを聞いておくのは基本である。長次は基本に忠実であった。

「長次さえよければ一生」
「…………」

それはもはや貸し出しではないのではないのだろうか。

「もしまだ決心がつかないのならとりあえず規則に則って七泊八日でもいいが?」

決心とは一体何の決心だろうとか七泊八日なら確かに規則通りだとかそれ以前に図書委員自体を借りるのはいいのだろうかとかやはり図書委員として利用者の要望には答えなければ等、様々な考えが長次の頭を駆け巡った。
さて…どうしたものかと長次は考えた。

「長次、私のものになるのがそんなに嫌か?」

いつの間にか仙蔵に借りられるのではなく仙蔵のものになることになっていることに多少違和感を覚えたが、一つだけ確かなことがあった。

「…嫌ではない」
「それでは」

嬉しそうに答える仙蔵にしかし長次はきっぱりと言った。

 

「…規則は規則だ」





 

その後一週間、忍術学園では授業が終わるととても幸せそうな顔でどこかへすっ飛んでいく仙蔵の姿があったという。

一方長次は、見る人が見ればどこか楽しそうでどこか恥ずかしそうだったそうだ。

それ以外には特に大きな変化があったわけではない。だから、誰も何も気づかなかった。

ただしその一週間の間に長次に頼みごとをした人物は全員「悪いが長次は私が借りている」という言葉と煙幕と共に、長次が一瞬にして消え去るのを目撃したという。

 

 

 

一週間が過ぎた翌日、文次郎は授業が終わっても動こうとしない仙蔵の中に切なさと落胆を見、小平太は長次の中に寂しさを見た。

文次郎と小平太はお互いに相手にどうしたのかと尋ねてみたが、仙蔵は「返さなければならないものを返却しただけだ」としか言わず、また長次も首を横に振るだけだった。

そして、以前と何も変わらない日常が始まる。

変わったことと言えば、その後図書室に「中在家長次は扱っておりません悪しからず」という謎の張り紙が出され、利用者の間に物議をかもしたということだけだった。


















 


あとがき

仙長を書きたくって書いてみたらこんなことに…。あれ、最初はギャグ一直線だったはずなのに…。
わかりにくいですが、仙蔵様は何をしたかったかというと一週間の期間で長次を落としてみせる自信があった訳なんですね(必死)。
うちの仙蔵様は受け作品が多いですが仙蔵様は攻めでも最強です(笑)
ちなみに、貸し出しカードに名前を書くネタはカラオケに行った時に「ご注文欄」に間違えて自分の名前を書いた時に思いつきました(笑)。