「ええぇぇっ!」
「知らなかったんですか先輩?」
「二人は知ってたのか?」
「「はい」」

久々知は「五年にもなって知らないのか?」と自分自身から言われたような気がした。
自分だけが知らなかった。
大したことはないと言ってしまえばそれまでだが、少しだけやっかいなこの事実を。

 

火薬委員会の関係

 

「久々知先輩、驚いてましたね」
「ああ、もしかしてとは思ったけど本当に知らなかったんだなぁ」

伊助が久々知とタカ丸の間の小さな隙間に気付いたのは最近のことである。
それはとても微妙なもので、それに気付けたのは伊助の注意深さと年少者ならではの勘のようなものかもしれない。
それを話された三郎次はそれが二人の年齢によるものだとすぐに気付いたのであった。

「…そういやタカ丸先輩が久々知先輩のこと呼んでるのほとんど聞いたことないかもな」
「あ、そうかも」
「タカ丸先輩、ああ見えて気を使ってたりするのかなー」
「ああ見えて、ってどういう意味です?」
「…それはこの際置いとけ」

珍しく三郎次の上げ足を取ることに成功した伊助はあることを思い出した。

「…そういえば、大分前だけど確か二年生には編入生が来ませんでした?おじさんの」
「ああ、樋屋さんか」
「やっぱり敬語ですか?」
「そりゃそうだろ。相手はおっさんだぞ」
「でもうちのクラスの喜三太が風魔にいたころの古沢さんっていう同級生は、おじさんだったけど喜三太と普通にしゃべってましたよ」
「え?う、ううん…」

 

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「え?おれが久々知先輩に気を使ってるって?」
「いや、まぁ、なんとなくそんなこともあるかなぁーなんて」

なんでこんな大した事もないことが気にかかるのか分からない。しかし三郎次はタカ丸と二人だけの時に尋ねておくことを忘れなかった。

「うーん、そんなことはないと思うけど…」

タカ丸は頭を掻きながら答えた。
その反応に、三郎次はやっぱりこんなこと聞くんじゃなかったと後悔する。
しかしタカ丸の答えはそこで終わりはしなかった。

「うーん、そんなことも…あるのかなー」
「え?」
「ほら、おれの父ちゃんって自分で言うのもなんだけど結構有名な髪結いでさ。おれは物心ついた時から髪結いの修行してたんだよね。それで大きくなって髪結いとして働くようになったら、回りはお客と父ちゃん含めてみんな年上ばっかり」

天才髪結いと言われた父。息子である自分が父と比べられ期待されるのも仕方ないとタカ丸は思っていた。
しかし気を使ったり使われたりするのはどちらかというとタカ丸の苦手とする所だった。
その事で父に怒られたことも多く、自分はそういうことはあまり出来ない、しない人間ではないだろうかとタカ丸は思っていたので先程の三郎次の言葉を意外に思ったのだ。

「…年下、それも年が近い相手は慣れてなかった、ってことですか?」
「かも、ね」

 

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「土井先生なら、どうしますか?」
「ん?どうした伊助?」
「いえ、だから、例えば年上の後輩とかがいたら」
「なんだ、急にどうしたんだ?お前はまだそんなことを気にする年じゃないだろうに」
「ま、それはそうなんですが…。ほら、教生の大真締先生が来た時とか、どうしてました?先生の方が年下でしょ?」
「……気づいてたのか。変なところで鋭いんだからな…」
「へへ」
「…まぁ確かに、それなりに気は使うがそれでどうということはないぞ?」
「…そうですか。じゃあ…仲良くなりたいけど、なんだか気を使っちゃう人って、どうしたらいいんでしょう?」
「ん?…そうだな…例えば…」



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「お〜い、火薬委員は集合だー」

今日も火薬庫前に久々知の気の抜けた号令が響く。
それに三人の元気な後輩達がいつも通り応える。はずなのだが…

「「は〜い!とうふ先輩!」」
「!!?」

「(おい、久々知先輩ひっくりかえってるぞ。これでほんとに打ち解けられるのか?)」
「(さぁ…でも土井先生が「呼びやすいあだ名とかをつけるといいかもな」って言ってたですし)」

「ちょっと待ってくれ。なぜだ。なんで豆腐なんだ」

衝撃から復活した久々知に応えたのはタカ丸だった。

「そりゃあ久々知先輩が」
「…もういい」
「えーなんでー?いいじゃん、とーふこぞーって」
「言うなー!しかもひらがなで伸ばすなー!」

「「(あれ…?)」」

「三郎次から聞いたよ?運動会の久々知先輩の武勇伝!いーなーおれも見たかったー!」
「だから俺はとうふじゃないっ。むしろ運動会の日から食堂でとうふ注文しないようにしてるくらいだ」
「うわー!涙ぐましい努力」



二人のやり取りを見ていた三郎次が呟いた。

「…なんかわかんないけど、こんなもんなのか?」
「…土井先生が言ってましたよ。「一旦慣れれば、後は早い」って」
「はぁ」

二人はまだ話している。

 

「これからもよろしくね、とうふ先輩」
「……もう好きにしろ…」
「まぁまぁ久々知先輩、そうやさぐれないで下さい」
「ごめんなさい、ちょっとふざけただけなんですぅ」



 

四人の様子を、遠くから笑顔で土井が見守っていた。

 

 

 

 

 

 


あとがき

大分前にほとんど書いて、そのままほったらかしだったやつです。…途中で力尽きた感が拭えません(汗)えーと、どうしても久々知とタカ丸の決着をつけたかったのです。
今までのシリーズでこの二人の会話が少なめなことに気づいてしまったので(まぁ話し方設定してなきゃ当然かもしれませんが)
自分の好きなように書けばいいのに、なぜか話し方だけで悩んでしまった末に出来た自分のための話です。あと色々設定は適当なこと書いてますので信じないで下さいね(笑)