「じゃあ、行ってくるな」
そう言い残して土井先生は行ってしまった。
去り際に土井先生がさりげなく胃を抑えていたのを久々知と伊助は見逃さなかった。
そんな顔するなだとか、お前達のせいじゃないだとか。
なら、誰のせい?
火薬委員会の労苦
忍術学園で最も地味な委員会、火薬委員会。
忍術学園で最も狙われやすい場所、火薬庫。
火薬委員会は基本的に火薬を管理する委員会である。しかしその「管理」の内容が「守る」という範囲にまで及んでいることはほとんど知られていない。
また、逆に言えば火薬を守ることだけが火薬委員会の仕事であるとも言える。
故にそれが出来なかった時は、自動的に火薬委員会の存在意義と責任が問われる時となる。
今がまさにそうだった。
幻術使いと組んだドクタケ忍者隊にまんまと火薬を奪われてしまったのだから。
問題は解決したが、失った火薬と信用は戻らない。
「ところで、火薬委員長はどうしたんですか?」
慌てて沈黙を破るように、三郎次が久々知に聞いた。
「今から、委員会議だってさ。付いて行こうとしたんだけど、断られた」
「…それは、先輩が気を遣って下さったんだと思います」
「そうだね」
久々知は少し顔を上げた。
今頃、土井先生は職員会議で安藤先生の嫌味に胃を痛め、委員長は直接責められてはいないだろうが委員会議で肩身の狭い思いをしていることだろう。
ヒラの委員達にはお咎めはない。
ただいつものようにこうして火薬庫を管理し、時折聞こえてくる「火薬委員会は何やってたんだ?」という声に耐えるだけだ。
「僕…悔しいです」
突然、今までずっと黙っていた伊助が口を開いた。
「僕達は組が、落とし穴に落ちてなければ…火薬委員は、ちゃんと仕事をしてたのに…」
は組の行方不明、倉庫の鍵の紛失。様々な要因から火薬庫の「管理」は明らかに手薄になってしまっていたのだ。
「お前らのせいじゃないって。それに、相手は幻術使いと組んでたんだろ?俺達がここにいたって、幻術で眠らされてたのがオチだ」
珍しく三郎次が伊助を慰めた。それから吐き捨てるように言った。
「大体、火薬委員会だけで火薬庫を守ろうっていうのに無理があるんだよ…文句があるならお前がやってみろっていうんだよ…!」
「先輩…」
時々三郎次は悔しくなる。火薬委員はその仕事内容の地味さ故に労苦をわかってもらえない。
別に自分の委員会の大変さを自慢したいわけではない。他の委員会にもそれぞれ大変で大切な面があるのはわかっている。ただ、あたかも他の委員会よりも楽して失敗をしているように言われるのが悔しいのだ。
一歩間違えれば大事故に繋がりかねない危険性、侵入者への対応、みんなが必要とするものを扱うこと、それ故に失敗は許されないというプレッシャー。
再び訪れた沈黙を破ったのは久々知だった。
「な、二人は誰のせいだと思う?」
「え?」
「今回のことが…ですか?」
「そう」
久々知の目は三郎次や伊助ではなくどこか遠くを見ていた。
「学園長先生は…学園みんなの責任だとおっしゃっていましたが。学園の侵入を許し、火薬庫に注意を向けなかった事が問題だと」
「本当にそう思うか?」
「え?」
「やっぱり、僕達は組が…」
「違うよ」
久々知は表情を変えずに言った。
「俺達、火薬委員のせいだよ」
「「…………」」
「確かに俺達だけで倉庫を守るのは時に無理がある。でも、どんな事情があろうと俺達は火薬を盗まれた。失敗は許されない。そういう仕事だろ?」
久々知の声には自嘲も悔しさも、何も混じってはいなかった。
だから伊助と三郎次は、それを単なる事実として受け入れることができた。
「ってわけだから…ちょっと三郎!雷蔵!ここしばらく頼む!」
「ってええっ!先輩、どこ行くんですか!?」
いきなり呼び止められて困惑する雷蔵と、面白そうな臭いを感じたのかすぐ承諾する三郎。
「委員長と土井先生のとこ!やっぱ二人だけっていうのはおかしいだろ?」
そう言って、久々知は走り出した。まるでヨーイドンの声を掛けられた選手のように。
「怒鳴り込みですか?」
「つまみ出されちゃいますよ!」
そう言いながら、三郎次と伊助も続いて走り出す。
「その時はその時!」
久々知が笑い、それが後ろの二人に伝染する。
三人は楽しそうに駆けていった。
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「へー。そんなことがあったんですかぁ」
タカ丸は驚いたように感心したように久々知の話を聞いていた。
「そう。で、まぁ結局というか…予想通りつまみ出された訳なんだけど」
「じゃあよかったですね!」
「え?」
「あー、僕火薬を守れてよかったー!ね!」
「…ああ」
それは誰からも褒められることはないのだけれど。
あとがき
突発火薬委員話。最高に大好きです、火薬委員。こういう委員だったらいいと思う。
っていうか早く委員長出てきて!くくちとタカ丸の喋り方がわからない…。