昔語り。
それはずっとずっと先のお話。
「いさく先生…眠れないよ」
「僕も僕も」
昼間あれだけ遊んだのに、まだまだ子供たちは元気いっぱいです。
伊作先生は、おやおやという顔でみんなを見渡してから、少しため息をついて言いました。
「仕方ないね。何かお話でもしてあげようか」
「やったー」
「昔々あるところにね、四人の忍がいたんだ」
「またその話?」
「あ、私その話好き」
「僕知らないよ」
子供達からそれぞれの反応が返ってきます。
「まあまあ。その四人は忍者の学校に通っていたんだ。みんなとても優秀だった…いろんな意味でね」
いろんな、ってどういう意味だろうと考えた子供もいましたが、難しそうだったので今は聞かないことにしました。
「そのうち一人は小平太っていうんだけど、とっても元気があってね。いけいけどんどんが口癖だった。
その怪力は十分間で百メートルの穴を掘り、木々を薙ぎ倒し、鉄の砲弾をバレーボールにしていた程だったんだよ」
「えーうそー」
「よくわかんないけど、人間じゃないみたいだねー」
信じているのかいないのか。くすくすと笑い声に混じって声が返ってきます。
「うん。そうだね」
(………なんか酷い言われようじゃない?)
(大体本当だから反論のしようがないな)
「もう一人はね、とっても寡黙。長次っていうんだ。
委員会でも勉強でも、いつも誠実に仕事をする姿や、針の穴を通すほどの縄標さばきには憧れている生徒も多かったよ」
(………)
(照れるなよ。)
「ただここだけの話、笑うと少しだけ怖かったけどね」
「こわい?」
(ガーン)
(長次、元気出して!)
「もう一人はね、とっても暑苦しくて煩くて汗くさくてギンギンな忍者馬鹿。
うん。そんな奴。あ、名前は文次郎」
「やだー」
「あははははは」
(ちょっと待てえぇコラァァ!!)
(抑えて抑えて!)
「いさく先生、急に部屋がなんだかあつくるしくなってませんか?」
「そうだねー。どうしたのかな?」
伊作先生は気にせず話を進めます。
「もう一人は、長い髪が本当に綺麗な奴。仙蔵っていう。成績は実技も教科も抜群で特に火薬の扱いは巧み。
プライドが高いけどスマートでかっこいいんだよ。」
「へー」
「ただ、ある苦手な一年生達とお使いに行くと、決まって黒コゲになって帰ってきてたんだよねえ」
「黒コゲ!?」
「見てみたい〜!」
子供達はからからと笑います。
(伊作貴様ーーっ!)
(…………抑えろ)
「い、いさく先生、今度は急に寒くなってませんか!?」
「ん?そうかな。気のせいじゃない?」
(あいつまさか気づいてるんじゃないだろうな…)
(…ありうる)
さて、人物はそろいました。これから楽しいお話の始まり始まり。
伊作先生はとっても話上手です。
小平太が学校の備品を壊したことで会計委員の文次郎と喧嘩になり、結果余計に物を壊してしまったこと。
文次郎が女装の授業で仙蔵と歩いているとナンパされ、全く相手にされなかった文次郎がキレかけたこと。
いつも堂々としている仙蔵が、例の一年生二人を見るとあらゆる忍術を駆使して逃げ出していたこと。
ある日長次がいなくなったので捜してみると、本の山に埋もれて図書室の奥で眠っていたこと。
などなど。
(自分だけ生きてると思って余計なことを喋るなバカタレーー!!)
(あーそんなこともあったねぇ)
(この私を笑い話にするとは……覚えていろ)
(……懐かしいな)
最初は笑いながらお話を聞いていた子供達も、そろそろ眠たくなってきたみたいです。
「さて…今日はこれでお終いだよ。まだ起きてる子がいたら、もう寝ようね」
返事はありません。みんな眠ってしまったようです。
「さて…僕も寝ようかな」
そう言って、伊作は子供部屋を出ました。
そうしてぽつりと。
「ちょっと寂しいとか思ってるんだから、これくらいは勘弁してよね」
いさくー!!ご飯食べに行こ!
相変わらずだな伊作。
……伊作…ありがとうな…。
おい、ぼさっとすんな伊作!
桜の咲く季節に出会い、そして別れた僕達にはあまりにも。
それはずっとずっと後のお話。
あとがき
突然降って沸いたように浮かんで、一気に書いた話。
でも、これはどう分類すれば…。死ネタなのにどっちかというと中盤ギャグっぽい…。
全く意味はありませんが、六年生は私の中で死ぬ順番が決まっています。でも伊作には生き残って欲しいな。それで医者とか先生になると。
伊作は25〜30歳ぐらいの設定。