「きーりーちゃーん」

「ら、乱太郎……?」

 

 

 

夏休み





 

 

「まったく、やっぱり新学期始まる前に土井先生の家に寄っておいてよかったよ。きり丸ったらこの時期絶対アルバイトの何かをためこんでるんだから」
「あはは、さすが乱太郎」

牛乳瓶に赤ちゃんに。新聞にアサリに犬。
それらをあるべき場所に返した後、二人で夕暮れの町を歩く。
どこか夏の終わりの気配を感じさせる太陽が乱太郎を橙色に照らしていて、きれいだと思った。
同時に、乱太郎が会いに来てくれたことをもう一度実感して俺は妙に嬉しくなった。

「……まさかとは思うけど、もう酔っ払いの引き取りの仕事はしてないよね?」
「え?あ、ああ…」

いきなりじっと目を見つめられる。俺はこの乱太郎の目にめっぽう弱い。

「ほんとにしてないってば」
「それにしては返事が怪しいよ」
「あれーそうか?あははは」

本当のことを、わざと嘘っぽく話す俺は歪んでるかな。
いちいち反応してくれる乱太郎がうるさくて、好きで、もっと見ていたくて。

 

「ねえ、ちゃんと聞いてる?」

ぼんやりしていたら、乱太郎に怒られた。

「あ、ああ。聞いてるよ」
「私本当に心配してるんだからね…?」

俺を覗き込むようなその瞳に俺は不覚にもどきりとしてしまう。そして意味もなく乱太郎を心配させたことをちょっと反省してしまった。

けどなんだか、俺は素直に返せなくて。

 

「……乱太郎がいる限り、何があっても大丈夫なんだよ」
「えっ?」

ぼそりと呟いたその言葉が、乱太郎に届いたかどうかはわからないけど。

「行こうぜ!あとは洗濯物のバイトだけだー!」
「ま、まだあるのぉ?…ってさっき何て…」

言い終える前に、俺は乱太郎の手を掴んで走り出した。
その手は、少しだけ熱かった。

 

「まったく。きり丸のおかげで、本当に楽しい夏休みだよっ」
「あはははは。それはよかった!」

笑いながら言うその言葉がどうも皮肉には聞こえなくて。
こんな夏休みも悪くないと、俺はまた少し自惚れてしまった。









あとがき

リク消化作品でございます。
きり乱で、お題「夏休み」ということでした。
ちょっと意味とかオチが甘かったかも…と不安なのですがリクして下さった方に少しでも楽しんでいただければ幸いです。

きり丸と乱太郎は夏休みでもお互い会えるのを楽しみにしてるといいと思います。

リクしてくださった方のみ、宜しければお持ち帰りください。(8月22日加筆)