利己的な盾

 

 

 

 

 

 



「仙蔵、入るよ」

闇の中、小さな明かりが仙蔵を映し出していた。
声をかけられた仙蔵は本を読む手を休めることもなく答える。

「何だ、伊作」

伊作は苦笑いを浮かべながら部屋に入り、戸を閉めた。

「文次郎は?」
「いつもどおりだ」
「…あいつらしいね」

仙蔵は相変わらず机に向かったままで、伊作を見ようとはしない。

「…実習、明日からだね」
「そうだな」

それがどうした、と言わんばかりに仙蔵は答えた。

明日からの実習の内容。
その課題は「人を殺す」こと。
無論、それは同時に自分の命を賭けて戦うことでもある。



「…頼みがあるんだ」
「何だ。…くだらない頼みなら無視するぞ」

伊作は本日二度目の苦笑いを浮かべながら、言った。

「君を、守らせて」

仙蔵はそこで初めて怪訝そうに伊作を見た。

「…どうゆう意味だ?」
「そのままの意味だけど」

仙蔵は怪訝そうな顔を崩さない。

「…何故そうなる?誰かに守ってもらう程、私は弱くはない」
「うん、そうだね。…そうだね」

伊作は溜め息をついた。
そして、じゃあ言い方を変えるねと前置きして。

「僕が、人を殺める理由になって」
「……」

「……僕はね、多分自分の為だけに人は殺せないんだ。いや、正確には…「迷わず」かな?だから」

伊作の笑みは自嘲の色を深めてゆく。

「だから、理由になって。君を守らせて。…人を殺して笑顔で帰って来る理由になって」

仙蔵は黙って伊作の話を聞いていたが、やがて口を開いた。

「…何故私なんだ?」
「…欲しいから」

思わぬ答えに仙蔵は一瞬固まった後吹き出してしまった。伊作もつられて声を出して笑う。

ああなんて利己的な盾。

「…呆れたな」
「で、仙蔵はどうなの?いいの?駄目なの?」
「…いいだろう。光栄に思え」

そりゃどうも、と伊作。その体が仙蔵に近付く。

 

「今がいい」
「…何だ?」
「わかってる癖に…」

 

伊作は悪戯っぽく言った。

ああ、なんて利己的な盾。

 

 

 

 

 


あとがき

シリアスを目指してみたけど…な話。なんとなくというか少しあれですが、私の微えろなんてこんなものです(汗)
まだ伊仙のイメージが完全にできあがってない頃の話なので、今のとは少し違うかも。