どすどすどす。
ああ、もうそんな時間か。
一人保健室にいた伊作は薬研を動かす手を止めた。
少ししてがらり、と戸が開く。
「………」
「おかえり」
そこには予想通り──焦げた仙蔵がいた。
先読み厳禁
仙蔵は憮然とした表情で伊作の手当てを受けていた。火傷の程度は軽く、冷やして患部に薬を塗るだけだった。
自分でやると言い出すかと思ったが、仙蔵は大人しく従っていた。
保健委員長らしく伊作はテキパキと作業を進めていく。
「はい、これで終わり。あと薬渡しとくから」
「…ああ」
「あ、この着物はもうだめだね。僕の着物がここにあるから長屋まで着て行きなよ」
「……」
「せっかく手当てした肌をススにさらす気?はいこれ」
「……少し準備が良すぎないか?」
「そう?」
喜三太+しんベヱ+仙蔵=ああ、火傷の薬と着替え用意しとかなきゃ。という公式を持つ人物は学園広しと言えども伊作以外ないだろう。
一方探るような視線を伊作に浴びせながら、仙蔵は伊作の着物に着替えてゆく。
「…大きい」
六年生の中でも仙蔵は小柄だ。
そう差があるわけではないが伊作の着物は仙蔵には少し大きい。
「贅沢言わないでよ。そんな風になって帰ってくるほうが悪いんだから」
「こ、これはあいつらがっ…!……伊作、さては文次郎達から聞いていたな?」
「…さあ?」
「とぼけるな」
隠された謎を解くように、駆け引きをするように、二人は睨み合う。
先に口を開いたのは伊作だった。
「…はあ。とにかく、機嫌直してよ。あの二人にも悪気は無いんだし、さ」
「あの二人だと?」
仙蔵があからさまに顔を歪める。思い出すだけでも苦痛のようだ。
「もちろん一年生の方」
「……そんなことはわかっているっ」
「慕ってくれる後輩は大切にしないと」
「お、お前に何がわかる!あいつらのせいで私は口にナメ……」
「ナメ?」
しまったと思った時は、大抵もう遅い。
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「くっ…は、あははははは!!」
「……〜〜〜っ」
「ごめ、ごめん仙蔵……」
「…………」
「と、とりあえずそれ雑菌が入っただろうから口を…くっ…くくく…あははは!」
伊作が笑いをこらえきれないでいると、仙蔵が不意にに口を開いた。
「………伊作」
「え?」
肩を強く掴まれるのを感じた。
殴られる。
伊作は目をつぶった。
しかし予想に反して伊作に拳が飛んで来ることはなく───
代わりに唇が塞がれた。
「ん……?」
「…………ふ」
「つっ……仙…ぞ?」
疑問符を飛ばす伊作に、仙蔵は言い放った。
「これでお前の口も、雑菌だらけだ」
すたすたと保健室を出て行く仙蔵。
取り残される伊作。
「…いや…参ったなぁ」
保健室で一人、伊作はつぶやいた。
あとがき
仙蔵は六年五人の中で一番背が低いという噂を聞いたのですが…。
えーっとごめんなさい最初は仙ちゃんに大きめ着物を着せて伊作の先読みを書きたいだけでした…!(滝汗&恥)
ところが途中で仙ちゃんがやられっぱなしで終わらないような気がして(痛)
でもこの状況でどうやって反撃すんのさーと思っていたらこのような展開になりました。
リバのつもりはないですが。ああ伊仙ってどうしてこんな恥ずかしくなるんだろう…。
微妙に「風光る」ネタかも?