どこにいるの。
Search me. Search out.
「うん、なかなかしつこくていい感じだったね」
「何がいい感じだバカタレ!誰がこんな山奥まで逃げろと…!」
「……はあ…はあ…」
町で尾けられていることに気づいた僕達は、追っ手を撒くために走り回った。
追っ手はとにかくしつこく、町の中では撒くことができなかったため七松先輩の誘導に従って山に逃げた。
先輩はどうやらこういう地形が得意らしく、うまく追っ手を撒いてくれたのである。
「あ、ありがとうございます…」
「いや、いいよ」
「…あいつら、お前を狙ってるみたいだったな」
潮江先輩の言う通りだった。追っ手の狙いは明らかに僕。とすると先輩方は巻き込んでしまった上に助けてもらったことになる。本当に感謝しなければならない。
「んーでもさー、向こう相当できる人達だったと思うんだけどなんかこうそんなに「ぶっころしてやるぞー!」って感じじゃなかったよね」
「…忍者らしく「あまり殺気がなかった」と言え」
「…でも確かにそうです。前に会った男は大した奴ではありませんでしたが…。もしあれ程の忍を動かせる何かが僕──もしかしたら三郎かもしれないけど──の命を本気で狙っていたら、僕はもうとっくに殺されていてもおかしくない…」
「全く、そんな弱気でどうする…と言いたいところだが確かにそうだな」
「もしかしたら敵の狙いは、不破を殺すことじゃないのかもね」
考える。何が起こっているのか。三郎はどうしているのか…。あの男は鉢屋三郎という名の「僕」を殺した、と確かに言った。
でも、でも、三郎がそう簡単に死ぬなんて…考えにくいし、何よりも絶対に認めたくない。現に先輩達だって三郎が死んだなんて知らないと…
「そ、そうだ!先輩、三郎が今どうしているか知りませんか!?何でもいいんです、お願いです、知っていたら教えて下さい…!」
それを聞いた先輩達は少し困ったように顔を見合わせた。
たとえ家族であろうと、基本的に忍者は仕事の情報を人に教えてはいけない。さっき助けてもらった先輩方にわがままを言って困らせるなんて、と普段の僕なら思っただろう。でも今は、何に代えても三郎のことが知りたかった。
少し間があった後、潮江先輩が歯切れ悪く切り出した。
「…あまり、詳しいことは知らねえんだが…」
「いいんです、教えて下さい!」
「…鉢屋の一族が、代々忍者をやっていることは知ってるか?」
「…はい、少し」
三郎は自分のことをあまり話さないし、詮索されるのもあまり好きではない。
ただ三郎の一族はある城に仕える優秀な忍者隊らしい、と聞いたのは噂でだ。
いつか会話でそのことを尋ねられた三郎が「いやー俺の家族って堅くって堅くって…学園に家出して来たんだよ」と冗談混じりで言っていたのを思い出す。
「三郎は…卒業したら一族の忍者隊に戻る…と言っていたと思います」
「…そこまでわかってるなら話は…。……落ち着いて聞けよ、その鉢屋の一族が仕えてた城が滅んだ」
「え…?」
滅んだ…?三郎の仕えていた城が…?
「じゃ、じゃあ、三郎は…!」
「わからねえ。どこのどの城がやったのかも…城自体も今は焼け跡になってる。ただそこに鉢屋が仕えていたのは確かだ…」
「そん、な…!」
全身に冷水をかけられたような気がした。城が滅びる時は多くの死者が出る。その中に三郎もいたのだろうか。あの男が言った通り、三郎は…
「ちょ、ちょっと待ってよ文次郎。確かにそれなら…えっと…鉢屋が死んだかもしれないし…死んだはずの鉢屋と同じ顔を見てびっくりする男がいても不思議じゃないよ。でも、その後忍者の追っ手をかけてくるのはおかしくない?もう城は滅んでるんだし…一忍者にあれだけの追っ手をつけるなんて普通じゃないよ!」
「そうだ。だから不破…無責任なことを言うが…まだ…まだ諦めるのは早いかもしれねえ」
「えっ…?」
「だから…さっきみたいな追っ手がかけられた、ということはだな…もしお前が鉢屋と間違えられているとしたら…敵は何だかわからねえが鉢屋に殺す以外の用があるってことだ。普通忍に用があるなら殺すのはそれが済んでからだな。だが連中は明らかにそれが果たせてない…。だから…もしかしたら…」
敵は三郎への用も殺すこともできず、実は三郎はどこかで生きているかもしれない。
「そうそう、なんたってあいつ変装の名人だし!ひょっとして影武者が死んだだけ、だったりして」
どちらとも───全て憶測と主観が混ざった希望的観測に過ぎない。だけど…だけど…
「…先輩…ありがとうございます…」
わずかでも希望があるのなら───この目で確かめるまで───
先輩方によくお礼を言って、僕はその滅んだという城へと向かうことにした。
正直一人では不安もあるけれど、さっきの感じからして尾けられることはあってもいきなり殺されるということは今のところなさそうだし、何よりこれ以上先輩方を巻き込みたくない。
襲われたとしたって──手がかりが向こうからやってきたと考えればいいんだ。
例えそれが、どれだけ僕を絶望させるものだとしても。
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「ねえ文次郎…これでよかったのかな…」
去ってゆく雷蔵の後姿を遠くに見ながら、小平太がぽつりと呟いた。
「…どういう意味だ」
「ううん…なんか…あの時は勢いで「まだ希望はある」みたいなこと言っちゃったけどさ。「もう諦めろ」って言った方が、不破には優しかったのかな」
「何が今のあいつにとって優しいかなんて、わかるわけねえよ。ただ…」
「ただ?」
「あいつが鉢屋を探すのを止めたら…鉢屋は本当に死んじまいそうな気がするんだよ」
あとがき
長らくほったらかしで申し訳ありませんでしたー(土下座)。
何も考えずに書き始めるからですね(汗)ですが、今回の話を考える上でかなり展開を考えることができたのでなんとか続けられるかと…。
あと毎度のことですが設定は適当です(もういいと思う)。小平太は山っ子だといいな。